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大阪高等裁判所 昭和62年(ネ)354号 判決 1988年6月24日

控訴人兼附帯被控訴人(以下「控訴人」という) 北野明人

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 山本寅之助

同 芝康司

同 森本輝男

同 藤井勲

同 山本彼一郎

同 泉薫

同 太田真美

被控訴人兼附帯控訴人(以下「被控訴人」という) 竹内修

右訴訟代理人弁護士 小泉哲二

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人らは各自、被控訴人に対し、金二一三万六一七七円及びこれに対する昭和六二年八月一二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人のその余の請求及び附帯控訴を棄却する。

訴訟費用(控訴費用、附帯控訴費用を含む)は第一、二審を通じこれを八分し、その七を被控訴人の、その余を控訴人らの各負担とする。

この判決は第二項及び第四項中被控訴人勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  第三五四号控訴事件につき

1  控訴人ら

(一) 原判決を取消す。

(二) 被控訴人の請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は控訴人らの負担とする。

二  第一〇五号附帯控訴事件につき

1  被控訴人

(一) 原判決中、被控訴人の敗訴部分を取消す。

(二) 控訴人らは被控訴人に対し、各自金一六〇〇万〇七八二円及びこれに対する昭和六二年八月一二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え(請求の減縮)。

(三) 訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。

(四) 仮執行の宣言

2  控訴人ら

(一) 本件附帯控訴を棄却する。

(二) 附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり補正、付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決二枚目裏七行目の「自転車」の次に「(以下「亡敏子車」ともいう)」を、同八行目の「自車」の次に「もしくは自己の右肘」を、同行の「自転車」の次に「もしくは同人の身体」をそれぞれ加える。

二  原判決三枚目表七行目の「直近」の次に「(以下、左右の表示は北を基準として行う)」を加え、同八行目の「を亡敏子」から同行末尾までを「もしくは自己の右肘を亡敏子車もしくは同人の身体」と改め、同九行目の「させ」の次に「、本件事故を発生させ」を加える。

三  原判決五枚目裏五行目の次に以下のとおり加える。

「5 損害の填補

被控訴人は、昭和六二年八月一一日、政府の損害賠償保障事業から一九九八万四三八一円の支払を受けた。右金員は、被控訴人の本件損害総額に満たないので、不足弁済の充当として、民法四九一条の適用により、右内金四三八万〇六四〇円を、前記3の損害金合計三一六〇万四五二三円に対する昭和五九年一一月三日から昭和六二年八月一一日までの年五分の割合による遅延損害金の弁済に充当し、残金一五六〇万三七四一円を右損害金元本に充当した。

なお、右支払は、被控訴人の本訴追行の結果、原判決において被控訴人の主張がほぼ認められたために行われた。したがって、弁護士費用は、右支払による損害填補後の額に対してではなく、全損害額に対して認められるべきであるから、弁護士費用もまた右支払の対象となる損害であり、右弁済充当は相当である。」

四  原判決五枚目裏六行目の「5」を「6」と、同七行目の「それぞれ」から同九行目末尾までを「本件損害賠償請求権に基づき、損害残額一六〇〇万〇七八二円及びこれに対する昭和六二年八月一二日」とそれぞれ改め、同一二行目の「認否」の次に「及び主張」を加える。

五  原判決六枚目表四行目の「事故車」の次に「もしくは控訴人明人の身体が」を、同行の「自転車」の次に「もしくは同人の身体」をそれぞれ加え、同六行目の「被告」の前に「(一)」を加えて、「(一)」以下を改行し、同裏五行目の次に以下のとおり加える。

「(二) 控訴人明人が、実況見分の際、亡敏子の身体と自己の身体との接触を認めた事実はない。昭和五九年一一月三日作成の司法警察員作成の実況見分調書の立会人北野明人の説明部分に記載された、同控訴人が右事実を認めたかのような文言は、実況見分担当警察官が、単車と自転車の接触事故であるとの先入観から、控訴人明人に対して、接触したのであればどこかと質問し、同控訴人も、前記(一)主張の事情により、転倒した後、起き上がってみると、亡敏子も転倒していることに気づき、本件事故発生に平常心を失っていたこともあって、呆然とした状態で右質問を受けて、「接触したのであれば右肘でしょう」と推測を述べたことから、右先入観を抱いた警察官によって、事実の陳述として記載されたに過ぎない。

(三) また、事故車が左側に転倒し、亡敏子がほとんど真後ろに転落して後頭部を打ったことは疑いのない事実であるところ、通常の運転姿勢では、運転者の肘がハンドルの外に出ることはないうえ、本件事故時においては、控訴人明人は左方向へ転把し、最後には転倒したのであるから、左転把の際には、左肘が引き付けられる一方右肘は伸び、かつ運転者自身の身体も左傾するので、右肘だけが亡敏子の身体に接触することはありえない。また、仮に接触したとしても、右肘という高い位置で、自転車上の相手方と接触しても、通常相手方が仰向けに転落することは考えられないから、この点からも右接触の事実はありえないと解すべきである。」

六  原判決六枚目裏九行目の次に「4 同5の填補額は認めるが、被控訴人の弁済充当は争う。」を加え、同一〇行目の「(過失相殺)」を除き、同一一行目冒頭に「1」を、同行の「敏子は、」の次に「荷を積んだミニサイクル」を加える。

七  原判決七枚目表二行目の「した」の次に「。控訴人は、亡敏子車の右のような蛇行しながらの中央線付近の運行状態から、亡敏子車の左右どちらを通過するのが安全であるか即座に判断できなかったうえ、亡敏子が右に寄るような姿勢であったので、左側通過を決意して進行したところ、亡敏子が予測に反して急に左側に寄って来た」を、同三行目の「である。」の次に「亡敏子が法規に従い、道路左側端を通行していれば、本件事故は発生していなかった。」を、同七行目の次に「2 被控訴人は、昭和六二年八月一一日、本件損害の填補として、政府の自動車損害賠償保険事業から一九九八万四三八一円の支払を受けた。」をそれぞれ加え、同九行目を「抗弁1の事実は否認し、同2の事実は認める。」と改める。

第三証拠関係《省略》

理由

一  当裁判所は、被控訴人の本訴請求は、本判決主文第二項の限度で認容すべきであり、その余は失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加、補正するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決七枚目裏七行目の「ところ」から同末行の「しかしながら」までを「。右争いのない事実に加えて」と改める。

2  原判決八枚目表一行目の《証拠付加省略》、同五行目の「線の」の次に「平坦な」をそれぞれ加え、同行から同六行目にかけての括弧内を「(以下「本件道路」という)」と改め、同九行目末尾に(本件道路の事故付近の状況は別紙図面(一)表示のとおり)」を加え、同裏一行目の「当時」を「本件事故直後の同日午後九時過ぎ」と、同三行目の「事故車」を「前照燈を点灯した事故車(排気量五〇CC、ハンドルまでの高さ一メートル、幅〇・六五メートル、長さ一・七メートル)」とそれぞれ改め、同四行目の「部分を」の次に「先行する従兄弟の山森滋弘(以下「山森」という)運転の原動機付自転車の約二〇メートル後方を同自転車に追随して、事故車のハンドルに伏せるようにして、時速約三五キロメートルで北進し、亡敏子は、親戚の家から本件事故現場(別紙図面(一)ウ及び④)に面して本件道路西側に存在する風呂屋加賀屋温泉二階の自宅に帰宅すべく、自転車(車体の高さ一メートル、幅〇・五メートル、長さ一・四五メートル、サドルの高さ約六五センチメートル)で本件道路を」を、同五行目の「車両」の次に「(北側車両の幅員一・五メートル、南側車両の幅員一・八メートル)」をそれぞれ加え、同九行目の「付近」から同行末尾までを「のやや左側付近(同図面表示アの地点)を、前後に荷物を積んで低速で進行する亡敏子車を、山森が中央線を越えて、その右側を追い越したときに、」と改め、同一一行目末尾に「その当時、右三車両以外には、本件道路上を通行する車両はなかった。」を加える。

3  原判決九枚目表四行目の「付近で」の次に「車体左側を下にして停止し、亡敏子は、亡敏子車の前輪が浮き上がり、次いで左側に傾いたため、バランスを失って自転車から投げ出され、事故車が右急制動を行った地点から約二・四メートル北方に、東北方向に頭を向けた形で仰向けに転倒し、亡敏子車はその東側に車体左側を下にして」を加え、同五行目の「亡敏子」から同九行目末尾までを「両自転車とも、事故直後の実況見分においては、車体左側部分のハンドルグリップ等に路面との擦過痕が認められただけで、他に顕著な損傷は認められなかった。」と改め、同末行の「行われたが」の次に「(以下「第一回実況見分」という)」を、同裏九行目の「7」を「8」と改め、同八行目の次行に、「7 控訴人明人は、事故直後、右肘付近が被害者に当たったように思っていたので、山森に対して、コートの腰付近か肘が当たったかも知れないと述べ、あるいは「どうしよう、どうしよう」とも訴えて、困惑を示した。さらに、実況見分の後に、被害者確認のために、パトカーに同乗して、亡敏子の収容された阪和記念病院を訪れた際、生命が危ないと聞かされ、同病院ロビーに集まった亡敏子の親戚の者から詰め寄られて、土下座して「すみません」と陳謝した。」を加え、同一〇行目の「血腫」の次に「(後頭部)」を加える。

4  原判決一〇枚目表八行目の「された」の次に「(以下「第二回実況見分」という)」を加え、同裏一行目から同一一枚目六行目までを以下のとおり改める。

「以上の事実が認められる。

なお、本件においては二度にわたり実況見分調書が作成されたことは前記認定のとおりであるが、右両調書の現場見取図(第一回実況見分の見取図が別紙図面(一)、第二回実況見分のそれが別紙図面(二)である)を対比すると、事故車の進路(道路左端から約二・八メートル東をほぼ直進)及び事故車が停止した位置を除く関係位置はすべて異なっており、別紙両図面に明らかなとおり、控訴人は、亡敏子車の進路に関し、事故当日は、発見当時の中央線付近の位置(別紙図面(一)ア点)から徐々に中央線東側(同図面イ、ウ点)へ進路を転じたと説明したのに対して、第二回実況見分においては、発見当時、中央線と左端駐車車両の中間(別紙図面(二)ア点)を進行していた亡敏子車が約七メートルの間に中央線西側に大きく転進し、中央線西側の同図面ウ点において突然東側に転把した旨説明したことが認められる。しかしながら、原審における控訴人明人本人尋問の結果によれば、同控訴人は、先行する山森の原付自転車がその右側を追い越した亡敏子車を前方十数メートルに発見したとき、同車の右を追い抜けると判断したことが認められるところ、別紙図面(二)によれば、同控訴人が亡敏子車を発見した②点と亡敏子車の位置ア点との距離はわずかに一四・八メートルであり、前記認定によれば、事故車の時速は約三五キロであったから、右距離をわずか約一・五秒で走破することとなり、亡敏子車が右側に転進し始めた事実を考慮してもなお、先行車両の右側追い越しの前例を無視して、亡敏子車と左側の駐車車両のわずかな空間を進行して、同車の左側を追い抜けると判断できたと解するのは困難であるうえ、同控訴人は、亡敏子車の左転把をわずか五メートル後方において発見したのであるから、別紙図面(二)の位置関係を前提とするかぎり、右距離を事故車が時速三五キロで走り抜けるにはわずか約〇・五一秒を要するに過ぎず、右状況においては、同控訴人としては、若干左に転把してから進行を継続することによって、事故車の進路を若干左に修正して、亡敏子車の左を衝突の危険なく追い抜けると判断でき、かつ追い抜きは可能であったと推認されることなど、第二回実況見分における同控訴人の説明には不自然な点が見受けられるうえ、同控訴人は同月八日司法警察員作成の供述調書においてもなお、右肘接触の点を除き、第一回実況見分の際の説明に沿った供述を行ったこと、同控訴人は第二回実況見分の際に初めて関係位置に関する右供述を翻して、新たな位置関係を主張し始めたこと、前記認定のとおり、同控訴人は事故直後の第一回実況見分の際には、同控訴人の右肘が亡敏子の身体にあたったと説明していたのに対して、同月六日の亡敏子死亡の頃から右接触の点につき否定的発言をなすようになったことに徴して、第二回実況見分における説明は、右接触の可能性を否定するために、亡敏子車の位置をことさらに中央線東側にずらして説明した疑いも払拭できないところ、同控訴人が右のように本件事故の状況について供述を変更した合理的な理由は本件証拠上見出だし難いこと、第一回実況見分における同控訴人の説明には不自然な点は見当たらないこと等を総合すると、右説明は事故直後の同控訴人の記憶に基づいてなされたものとして、信用することができるのに対して、第二回実況見分の際に同控訴人が自己の正確な記憶に基づいて指示説明を行ったと認めることはできないと言うべきである。

また、《証拠省略》中には、同控訴人が亡敏子車の左側を間隔をおいて通過し、亡敏子の身体には一切接触しなかった旨の各供述記載及び供述部分が存在する。しかしながら、まず、証人山森の右供述部分は、《証拠省略》によれば、同人は、日没後、亡敏子車及び事故車に先行して走行しつつ、車上から振り返って十数メートル後方を望見したものであって、正確な目撃を期待し難い状況での経験の供述であり、かつ同控訴人との前記身分関係に照らして、客観的で中立的な供述としてただちに信用することはできないと言うほかはない。また、《証拠省略》によれば、同控訴人自身、事故直後、亡敏子の身体と右接触の存否につき確たる自覚的記憶はないものの、自己の身体ないし着衣との接触の可能性を自認していた事実が認められ、前記6、7各認定のとおり、同控訴人は、本件事故直後当時、亡敏子との接触によって本件事故が惹起された認識の下に行動していたことが認められることに照らして、同控訴人の右各供述記載及び供述部分は、むしろ同控訴人が事故後本件事故の発生原因につき反省再考した結果達した判断に過ぎず、同控訴人自身の体験した事実の陳述としてただちに措信することはできない。

本件事故の原因に関する控訴人らの事実摘示欄二1(一)の主張については、同項後段の事故原因に関する主張部分は、本件全証拠によっても、これを認めることはできず、又亡敏子が本件事故前からくも膜下出血を発症していた事実についてもこれを認めることができず、単に控訴人らの憶測を述べたに過ぎないと解され、同(二)及び(三)については、冒頭掲記の各証拠によれば、むしろ同控訴人は第一回実況見分の際、右接触の事実を認めていた事実が認められるから、採用できず、同(三)についても、本件全証拠によっても、同控訴人の身体と亡敏子の身体との接触の際の両車の位置関係につき正確な認定を行うことはできないが、前記認定のとおり、同控訴人は事故車のハンドルに伏せるようにして運行していた事実が認められ、亡敏子についても、《証拠省略》によれば、通常の自転車運転者の姿勢を取って運行していたと認めるのが相当であるところ、同控訴人は、亡敏子車との衝突を回避するため、ハンドルを左に急転把した後、急制動措置を取って、前輪が左に向いたままの状態で滑走したのであるから、同控訴人の右肘は事故車のハンドルと同程度もしくはそれよりも若干低い位置にあったと認められ、両車の前記高さ、とりわけハンドル及びサドルの位置に照らして、事故車とほぼ同じ高さの亡敏子車が接近した際に、双方の車体に接触することなく、左転把によって進行方向に露呈された同控訴人の右肘が亡敏子の身体に接触し、右接触により、亡敏子の身体に対して左後方から急激に力が加わった結果、亡敏子車の前輪が浮き上がり、次いで、同車体自体は左に急激に傾斜し転倒したのに、亡敏子自身は、右衝突の衝撃によるかもしくは、右車体の左への転倒を防ぐために上半身の重心を右に移そうとして、左に転倒する亡敏子車の車体に対して身体が残された状態になり、車体の反対側に仰向けに投げ出されたと解することができ、控訴人らの主張するように、右接触がありえないと解する余地はないので、右主張を採用することはできない。

そうすると、前記認定事実を総合すると、亡敏子は、別紙図面(一)表示のように、道路左端部分に幅員一・八メートル及び一・五メートルの駐車車両が存在したため、中央線付近を走行中、後方から山森運転の原付自転車にその右を追い越された後、駐車車両のない道路部分に出たので、事故車が後方から接近してくることに気付かないまま、本来の自転車の進路である道路左端に戻って自己の住居のある本件道路西側の風呂屋の方に進行すべく、中央線付近を西側にいきなり転把した、一方、同控訴人は本件道路中央線と駐車車両の間になお約一・六メートルの余裕があるので、亡敏子車が左に転把する可能性に思い至らず、亡敏子車の左側を追い抜けると判断して、進路変更及び減速をすることもなく、そのまま進行したところ、亡敏子車がいきなり左に転把したため驚いて、衝突を避けるため左に転把したが、避け切れず、自己の右肘を亡敏子の身体左側に接触し、そのために亡敏子はバランスを失って、亡敏子車から転落したものと認めるのが相当である。

以上によれば、請求原因1の事実がすべて認められる。」

5  原判決一一枚目表八行目の「明人は、」の次に「本件道路を制限速度を越える時速約三五キロで北進中、わずか六・六メートル前方の中央線付近を進行する亡敏子車を発見し、かつ道路左端には駐車車両があるのを見たのであるから、右状況に照らし、亡敏子車が中央線付近の通行を継続する可能性に加えて、同車が前方交差点を右折するか、もしくは直進、左折するかのいずれかの可能性も存在すること、直進もしくは左折の場合、駐車車両がなくなれば速やかに道路左端へ進路を移す可能性があることを容易に看取しえたと認められるうえ、追越しをする車両として、前車の速度及び進路並びに道路の状況に応じて、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならず、したがって、亡敏子車の動静を注視しつつ、制限速度以下に減速することはもとより、同車のいかなる方向転換に対しても対処できるような安全な速度にまで減速して進行し、追越しもしくは追抜きに際しては、亡敏子車の動静を完全に見極めたうえ、接触の危険のない場所で、十分な間隔を置いて追越しあるいは追抜きを行うことにより、事故発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、これを怠り、亡敏子車が左寄りに進路を変更する可能性を予見しないまま、一・六ないし一・九メートルの幅員に狭められた左車線を漫然と同一速度で進行して、同車の左側を通過しようとした過失が認められるので、」を加え、同九行目の「であり」を「と認めることができ」と、同裏六行目の「一三二八万二七七七円」を「一三九〇万〇六九八円」とそれぞれ改める。

6  原判決一二枚目表三行目の「一九万五二〇九円」を「一九万五二〇八円(円未満切捨、以下同様)」と、同五行目の「五九」から同八行目の「額」までを「昭和五六年度二月期から昭和五九年度六月期までの支給額は別表記載のとおりであり、その平均額として、三一万二二七七円」と、同裏二行目の「二五三万七七一七円」を「二六五万五七七三円」と、同八行目の「一二六万八八五八円」を「一三二万七八八六円」とそれぞれ改める。

7  原判決一三枚目表一行目の「一三二八万二七七七円」を「一三九〇万〇六九八円」と、同二行目の「2,537,717」を「2,655,773」と、同三行目の「1,268,858」を「1,327,886」と、同五行目の「13,282,777」を「13,900,698」とそれぞれ改め、同裏一一行目から同一四枚目表四行目までを除く。

8  原判決一四枚目表八、九行目の「二一二八万二七七七円」を「二一九〇万〇六九八円」と、同一二行目の「の中央線」から同裏二行目の「行こうとする」までを「を自転車で通行するにあたっては、別紙図面(一)表示のとおり、二台の駐車車両があったのであるから、本件道路の本来の左側端を通行することはできないとしても、道路交通法一八条一項の軽車両に関する左側寄り通行の規定の趣旨にしたがって、同一車線上を通行する車両の通行の妨害にならないように、できるだけ道路左側を通行すべき義務があったうえ、中央線付近を北進していた際に、その進路を北行き車線内の左側寄りに変更するにあたっては、右車線内を自己と同一方向に進行する後続車両の進路を横切ることになるのであるから、後続」と、同三行目の「先に追い越」を「、進路変更を行ってはならず、まず後続車を進行、通過」とそれぞれ改め、同五行目の「亡敏子が」から同八行目の「えない」までを「前記一認定の事実によれば、亡敏子は、前記駐車車両に沿って、本件道路の左側寄りを通行することは可能であったにもかかわらず、中央線付近を通行したうえ、本件事故当時は日没後ではあるが、事故車は前照燈を点灯して運行していたのであるから、亡敏子が後続車の存在を確認することは容易であったにもかかわらず、後続車に注意し、その確認を行わないまま、急に左方へ進路を変更しようとしたことが認められ、亡敏子の右過失が本件事故の一因を成したことは否定できない。」と改め、同一〇行目の「主張し、」の次に「前記乙五、一〇号証、原審における」を加え、同一二行目の「各供述は」を「各供述記載及び供述部分は、いずれも本件事故直前における蛇行の具体的な態様に関する供述を欠き、」と改める。

9  原判決一五枚目表三行目の「二六」から同裏二行目までを以下のとおり改める。

「二七四〇万〇六九八円から二割を減ずることとする。したがって、被控訴人の損害額の総額は二一九二万〇五五八円である。

六 損害の填補

抗弁2の事実は当事者間に争いがない。したがって、被控訴人は、右一九九八万四三八一円につき前記損害額の填補を受けたことになる。被控訴人は、請求原因5において、右填補分につき弁済充当を主張する。しかしながら、政府保障事業に対する被害者の請求権は、自動車事故の被害者の救済を目的として、自動車損害賠償保償法七二条によって創設された公法上の権利であり、不法行為に基づく損害賠償請求権とは異なると解される。したがって、被害者の右請求を受けて政府がなす支払は、被害者が交通事故によって蒙った損害を、同条に基づいて、填補するものに過ぎず、加害者が被害者に対して負う損害賠償債務に対する弁済としてなされるものではないから、右損害の填補額につき、弁済充当がなされる余地は存在しないと言うべきである。したがって、右主張は理由がない。そうすると、前記五判示の損害総額二一九二万〇五五八円から右填補分を控除すると、被控訴人の残損害額は一九三万六一七七円となる。

七 弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等の諸事情に照らし、本件事故と相当因果関係に立つ弁護士費用は二〇万円と認めるのが相当である。            」

二  結論

以上によれば、被控訴人の本訴請求は、前記六及び七記載の各損害額合計二一三万六一七七円及びこれに対する不法行為後である昭和六二年八月一二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、これを認容すべきであるが、その余の請求は失当として棄却すべきであるところ、右額を越えて認容した原判決は相当でなく、控訴人らの本件控訴は一部理由があるから、原判決を右判断の趣旨に従って変更することとし、被控訴人の附帯控訴は理由がないから、これを棄却することとし、民訴法三八六条、八九条、九二条、九三条一項、九六条、一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安達昌彦 裁判官 杉本昭一 三谷博司)

<以下省略>

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